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最高裁判所第一小法廷 昭和60年(オ)781号 判決 1989年7月13日

上告人

大分市白木漁業協同組合

右代表者理事

村山勝喜

右訴訟代理人弁護士

岡村正淳

被上告人

若林公正

右訴訟代理人弁護士

山本草平

徳田靖之

小林達也

主文

原判決中上告人敗訴部分を破棄する。

前項の部分につき本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人岡村正淳の上告理由第一点について

一原審が確定した事実関係は、次のとおりである。

(一)  上告人は、昭和二四年一二月一〇日設立された漁業協同組合であり、被上告人は、昭和四二年四月一日以降上告人の正組合員である。

(二)  上告人は、大分市及び別府市の他の四漁業協同組合(大分漁業協同組合、大分市西部漁業協同組合、三佐漁業協同組合及び別府市漁業協同組合)とともに、昭和五〇年三月一日、国(九州地方建設局長)との間で、建設省が施行する一般国道一〇号線(いわゆる別大国道)拡幅工事に伴う漁業に関する損失につき損失補償契約を締結した。右契約において、国は、上告人ら五組合がその有する共同漁業権の一部を放棄することに対する補償金として四億三八三〇万円を支払うものとされ、右補償金のうち一億七六七〇万円(以下「本件補償金」という。)が上告人に支払われた。

(三)  上告人は、昭和五〇年三月三一日、本件補償金の配分の件を議題とする臨時総会を開催し、組合員総数六三名(正組合員五九名、准組合員四名)のうち五五名(うち委任状によるもの一〇名)が出席した。そして、組合執行部から、(1) 本件補償金のうち一二〇〇万円は組合員に分配せず、組合に留保しておき、その一部で建設省が設置を約した船溜りに付属施設を作る、(2) 残りの一億六四七〇万円のうち四七〇万円を調整金とし、その余の一億六〇〇〇万円を、漁業依存度七〇パーセント、年功二〇パーセント、資材五パーセント、均等割五パーセントの基準により各組合員に配分するものとし、右基準に基づく各組合員への具体的配分額の決定を執行部役員に一任するとの執行部案が提示され、討議が行われた結果、反対のあるままその旨決議された(以下、右決議を「本件総会決議」という。)。

(四)  被上告人は、昭和五〇年四月頃上告人から補償金配分額払込みの通知を受けて、自己に対する配分額が約六六〇万円であることを知り、一〇〇〇万円を下ることはないものと思っていたことなどから、右配分額に納得できず、昭和五二年六月一五日、本件訴訟を提起するに至った。

二原審は、右事実関係に基づき、次のように判示し、被上告人の請求を棄却した第一審判決を変更して、本件総会決議が無効であることを確認した。

(一)  漁業法(昭和二四年法律第二六七号)は、従来の入会的権利である地先水面専用漁業権と慣行専用漁業権を廃止して共同漁業権とし、その免許は申請により漁業協同組合又は漁業協同組合連合会に与え(一四条八項)、漁業協同組合の組合員は当該漁業協同組合又は漁業協同組合連合会の有する共同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有するものとしているが(八条)、これは、従来の権利の性質に変更を加えたわけではなく、漁業協同組合を設立して団体的規律を加えるとともに、主として漁民の厚生保護、資材・施設の共同購入、共同管理等の便宜を与えることを目的としたものであるから、入会漁業権の帰属関係に実質的な変更をもたらしたとはいえず、法人たる組合が管理権を、組合員を構成員とする入会集団(漁民集団)が収益権能を分有する関係にあると認められる。

(二)  そして、本件補償金は、右収益権能喪失による損失の補償を目的として入会集団に支払われたものと認められるから、上告人の組合員を構成員とする入会集団に、分割されない一体のものとして総有的に帰属するものというべきであり、帰属主体たる入会集団の規範による分割手続を経て、構成員たる個々の漁民に分配帰属するものと解されるが、右分配は、特段の慣行的規範が形成されていない限り、構成員全員一致の協議によるのを原則とし、右協議が成立しないときは、民法二五八条一項を準用して分配するほかはないものと解される。

(三)  総有は入会集団の慣行に由来するものであるから、総有における全員一致の原則も入会集団の慣行の変化に伴って修正されることがあり得ることは否定できず、漁業法及び水産業協同組合法は、入会集団に法人格を付与し、その組織及び活動に近代的原理を導入し、共同漁業権の放棄、漁業権行使規則の制定・変更等本来入会集団の権限であった事項につき組合総会の特別決議事項として多数決原理を採用しているから、そのことが組合と表裏の関係にある入会集団の意思決定方法についての組合員の規範意識に変化をもたらし、多数決の慣行が生成されることはあり得ることではあるが、共同漁業権の実質的内容をなす漁業を営む権利は組合員に総有的に帰属するもので、漁業協同組合の特別決議事項とされている漁業権の管理の側面とは異なっているばかりでなく、漁業権の消滅によって被る組合員の損害は均質ではなく、多数決原理が必ずしも公平に妥当するとはいい難いから、たやすく多数決原理の慣行を認めることは問題があるところ、上告人において、本件以前に、漁業補償金の配分につき多数決原理が慣行として確立していたものとは認められない。

(四)  そうすると、本件総会決議は、全員一致を欠くものであり、無効というべきである。

三しかしながら、原審の右判断はたやすく是認することができない。その理由は次のとおりである。

1  現行漁業法の定める共同漁業権は、旧漁業法(明治四三年法律第五八号)のもとにおける専用漁業権及び特別漁業権を廃止して、従来の定置漁業権の一部とともに第一種ないし第五種の共同漁業権に編成替えされたものであり、沿革的には、入会的権利と解されていた地先専用漁業権ないし慣行専用漁業権にその淵源を有することは疑いのないところである。

2  しかしながら、現行漁業法によれば、漁業権は都道府県知事の免許によって設定されるものであり(一〇条)、しかも、旧漁業法が先願主義により免許していたのを改めて、都道府県知事が海区漁業調整委員会の意見をきき水面の総合的利用、漁業生産力の維持発展を図る見地から予め漁場計画を定めて公示し(一一条)、免許を希望する申請人のうちから、適格性のある者に、かつ、各漁業権について定められた優先順位に従って免許を与えるものとされており(一三条ないし一九条)、漁業権の存続期間は法定されていて、その更新は認められていない(二一条)。

3  また、同法は、共同漁業権につき、その免許について適格性を有する者を漁業協同組合又は漁業協同組合連合会(以下「漁業協同組合等」という。)に限定し(一四条八項)、右適格性を有する漁業協同組合等に対してのみ免許をするものとする(一三条一項)一方、漁業協同組合の組合員(漁業者又は漁業従事者である者に限る。)であって、当該漁業協同組合等がその有する共同漁業権ごとに制定する漁業権行使規則で規定する資格に該当する者は、当該漁業協同組合等の有する当該共同漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有するものとしている(八条一項)。右八条一項の規定は、昭和三七年法律第一五六号による改正前の漁業法八条が、漁業協同組合の組合員であって漁民(漁業者又は漁業従事者たる個人をいう。)である者は、定款の定めるところにより、当該漁業協同組合等の有する共同漁業権の範囲内において「各自漁業を営む権利」を有すると規定していたものを改めたものであるところ、右改正前の規定については、右のように漁民である組合員全員が「各自漁業を営む権利」を有するものとしていたところから、漁民による漁場管理といういわゆる組合管理漁業権の本質を法的に表現したもので、組合が管理権限を持ち組合員がそれに従って漁業を営む関係は陸における入会山野の利用関係と同じであり、組合員たる資格を有する漁民は各自漁業を営む権利を有するが、その行使方法を定款で定め、形式的、機械的にではなく、団体規制下に実質的平等に権利を行使させようとするものであるとの見解を容れる余地があった。これに対し、右改正後の規定は、いわゆる組合管理漁業権について、組合員(漁業者又は漁業従事者である者に限られる。)は、組合が定める漁業権行使規則に規定された資格を有する場合に、当該漁業権の範囲内においてその内容たる漁業を営む権利を有するものとし、組合員であっても漁業権行使規則に定める資格要件を充たさない者は行使権を有しないことを明らかにしたもので、全組合員の権利という意味での「各自」行使権は存在しなくなるため、旧規定の「各自」の文言は削除された。そして、右漁業法の改正と同時に行われた水産業協同組合法の改正により、漁業権行使規則の制定、変更及び廃止が、総組合員(准組合員を除く。)の半数以上が出席しその議決権の三分の二以上の多数による議決を要する総会の特別決議事項とされたが(四八条一項一〇号、五〇条五号)、同時に、右改正後の漁業法では、特定区画漁業権及び第一種共同漁業権について漁業権行使規則を定めるについては、右議決前に、当該漁業又は沿岸漁業を営む者の三分の二以上の書面による同意を得なければならないものとして(八条三項)、関係地区内の漁業者等の利益保護の見地から組合意思の決定に制約を加えているほか、漁業権行使規則は、都道府県知事の認可を受けなければその効力を生じないものとされている(同条四項)。

4  他方、水産業協同組合法によれば、漁業協同組合は法人とされ(五条)、組合員たる資格要件(一八条)を備える者の加入を制限することはできず(二五条)、組合からの脱退も自由とされている(二六条)。また、漁業協同組合は、組合員に対する事業資金の貸付け等同法一一条一項各号所定の事業を営むほか、一定の組合は、組合員の三分の二以上の書面による同意があるときには、自ら漁業を営むことができるものとされている(一七条)。更に、漁業権又はこれに関する物権の設定、得喪又は変更は総会の特別決議事項とされており(四八条一項九号、五〇条四号)、漁業権の放棄は組合員の全員一致を要するものとはされていない。

5  以上のように、現行漁業法のもとにおける漁業権は都道府県知事の免許によって設定されるものであり、しかも、その免許は、先願主義によらず、都道府県知事が予め定めて公示する漁場計画に従い、法定の適格性を有する者に法定の優先順位に従って付与されるものであり、かつ、漁業権は、法定の存続期間の経過により消滅するものと解される。そして、共同漁業権の免許は漁業協同組合等に対してのみ付与され、組合員は、当該漁業協同組合等の定める漁業権行使規則に規定された資格を有する場合に限り、当該漁業権の範囲内において漁業を営む権利を有するものであって、組合員であっても漁業権行使規則に定める資格要件を充たさない者は行使権を有しないものとされており、全組合員の権利という意味での各自行使権は今や存在しないである。しかも、共同漁業権の主体たる漁業協同組合は、法人格を有し、加入及び脱退の自由が保障され、組合員の三分の二以上の同意があるときには組合が自ら漁業を営むこともできるものとされているほか、総会の特別決議があるときには、漁業権の放棄もできるものとされている。このような制度のもとにおける共同漁業権は、古来の入会漁業権とはその性質を全く異にするものであって、法人たる漁業協同組合が管理権を、組合員を構成員とする入会集団が収益権能を分有する関係にあるとは到底解することができず、共同漁業権が法人としての漁業協同組合に帰属するのは、法人が物を所有する場合と全く同一であり、組合員の漁業を営む権利は、漁業協同組合という団体の構成員としての地位に基づき、組合の制定する漁業権行使規則の定めるところに従って行使することのできる権利であると解するのが相当である。そして、漁業協同組合がその有する漁業権を放棄した場合に漁業権消滅の対価として支払われる補償金は、法人としての漁業協同組合に帰属するものというべきであるが、現実に漁業を営むことができなくなることによって損失を被る組合員に配分されるべきものであり、その方法について法律に明文の規定はないが、漁業権の放棄について総会の特別決議を要するものとする前記水産業協同組合法の規定の趣旨に照らし、右補償金の配分は、総会の特別決議によってこれを行うべきものと解するのが相当である。

6  そうすると、共同漁業権は従来の入会漁業権の性質を失っておらず、法人たる漁業協同組合が管理権を、組合員を構成員とする入会集団(漁民集団)が収益権能を分有するものであり、右収益権能喪失による損失の補償を目的として支払われた本件補償金は上告人の組合員を構成員とする入会集団に総有的に帰属するものであるから、その分配手続については、構成員全員の一致の協議によるべきであり、右協議が成立しないときは民法二五八条一項の準用により分配すべきであるとの見解に立って、本件総会決議を無効とした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるというほかはなく、右違法が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、その点をいう論旨は理由がある。

四したがって、その余の論旨に対する判断を省略し、原判決中上告人敗訴部分を破棄して、右部分につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官佐藤哲郎 裁判官角田禮次郎 裁判官大内恒夫 裁判官四ツ谷巖 裁判官大堀誠一)

上告人代理人岡村正淳の上告理由

原判決には、左記の通り判決に影響を及ぼす法令違反がある。

一 上告理由第一点(補償金配分手続の判断に関する法令違反)

1 原判決は、漁業協同組合に対する漁業補償金の帰属の性質を「総有」と解し、そこから直ちに、漁業補償金の配分手続は全員一致によるべきであるとの判断をなしている。

2 しかし、総有関係における総有団体内部の意志決定手続が全員一致によるべきであるか否かは、その法律関係の性質が「総有」であることから直ちに演繹されるものではない。

総有的帰属関係における当該権利の処分管理が、常に全員一致主義を要するものでないことは、原判決が総有だとする共同漁業権の処分(得喪変更)や管理(漁業権行使規則の制定変更)が、特別決議で足りるものとされていることに照らしても明白である(水産業協同組合法第四八条、同第五〇条)。

3 漁業権の処分管理についてすら、水産業協同組合法上特別決議で足りるものとされていることからすれば、漁業権が金銭に変化したものである漁業補償金の配分についても、これと異なる慣行的規範の存在が具体的に立証されない限り、漁業権の得喪変更に関する水協法の規定が類推適用されるものというべきである。

4 しかるに原判決は、何ら具体的慣行的規範を認定することなく、「総有」という、漁業権ないし漁業補償金の帰属の性質に関する一般論から直ちに全員一致主義を認定するに至っているのであるから、右認定は、第一に、総有関係の解釈を誤ったものであり、第二に、全員一致主義の認定判断に関し、理由不備の違法を冒しているものといわざるを得ない。

二 上告理由第二点<省略>

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